複線図の書き方と考え方
複線図は、覚えるものではなく組み立てるものです。手順には理由があり、その理由が分かっていれば、見たことのない回路でも同じ順番で書けます。ここでは単線図から複線図を起こす流れを、一段ずつ「なぜそうするのか」とセットで説明します。
そもそも複線図とは何か
単線図は、器具と器具の間を1本の線で結んだ図です。「ここからここへ配線する」というつながりの地図であって、電線が何本必要か、どの色をどこへつなぐかは書かれていません。
複線図は、その1本を実際の電線の本数に開いた図です。電気は行って帰ってこないと流れないので、実物は必ず2本以上になります。この「開く」作業が複線図を書くということです。
| 単線図 | 複線図 | |
|---|---|---|
| 示しているもの | 器具の配置と、どこからどこへ配線するか | 電線1本ごとの接続先と色 |
| 線の意味 | 経路(本数は表さない) | 実際の電線1本 |
| これで分かること | ケーブルの種類と本数 | 接続点で何と何をつなぐか、どのスリーブを使うか |
技能試験で複線図が要るのは、接続点(ジョイントボックス内)で何本をひとまとめにするかが、複線図を書かないと決まらないからです。ここを間違えると点灯しない、あるいは危険な回路になります。
複線図を成り立たせている2つの原理
手順に入る前に、この2つだけ押さえてください。以降の手順はすべてこの2つから導かれます。
原理1:電気は必ず一周する
電源から出た電流は、負荷を通って電源へ戻ります。ですから、どの負荷(電灯・コンセント)についても「行き」と「帰り」の2本が必ずある。複線図で線を引くという行為は、この一周の道筋を描くことに他なりません。線が1本しかつながっていない器具があれば、その時点で間違いです。
原理2:電源の2本は役割が違う
単相2線式の電源は2本ですが、対等ではありません。片方は大地につながっている接地側、もう片方が非接地側です。
| 接地側 | 非接地側 | |
|---|---|---|
| 電線の色(電源からの線) | 白 | 黒 |
| 大地との関係 | 大地とほぼ同電位 | 大地との間に電圧がある |
| 触れたときの危険 | 相対的に低い | 感電の原因になる |
| スイッチで切るべきか | 切ってはいけない | ここを切る |
この表の最終行が、複線図のほぼすべてを決めています。スイッチは非接地側に入れる。理由は単純で、接地側を切ると、スイッチを切ったつもりでも器具には非接地側の電圧がかかったままになるからです。電球を交換しようとして口金に触れれば感電します。スイッチを切れば安全になる、という当たり前の状態を成立させるための決まりです。
書く手順(この順番には理由があります)
手順1:電源の接地側・非接地側を確認する
まず単線図の電源部を見て、どちらが接地側でどちらが非接地側かをはっきりさせます。ここが決まらないと以降の色がすべて決まりません。最初に用紙の電源部へ「白=接地」「黒=非接地」と書き込んでおくと、あとで迷いません。
なぜ最初か:複線図で起きる間違いの多くは色の取り違えです。基準点を先に固定してしまえば、あとは基準からたどるだけになります。
手順2:接地側(白)を、電灯とコンセントへ先につなぐ
電源の接地側から、すべての電灯(負荷)とコンセントへ線を引きます。スイッチには引きません。
なぜ2番目か:接地側は分岐先が最も多く、しかも例外がほとんどありません。迷う要素がない線を先に片付けることで、残りの問題が小さくなります。また、接地側をスイッチに引かないというルールを最初に実行することで、原理2の「スイッチは非接地側」が自動的に守られます。
この段階で、負荷とコンセントには「帰り道」が1本ずつ確保されました。
手順3:非接地側(黒)を、スイッチとコンセントへつなぐ
電源の非接地側から、すべてのスイッチとコンセントへ線を引きます。電灯には直接引きません。
なぜスイッチには引いて、電灯には引かないのか:電灯へ行く電気はスイッチを経由しなければならないからです。電灯に非接地側を直結してしまうと、スイッチの有無に関係なく常時点灯します。一方コンセントは、常に電気が来ている必要があるので、非接地側も接地側も直接つなぎます。
| 器具 | 接地側(手順2) | 非接地側(手順3) |
|---|---|---|
| 電灯(負荷) | つなぐ | つながない(スイッチ経由) |
| コンセント | つなぐ | つなぐ |
| スイッチ | つながない | つなぐ |
この表が、手順2と手順3の全内容です。覚えるならこの3行だけで足ります。そしてこの3行は、原理2から導けます。
手順4:スイッチと、対応する負荷を結ぶ
最後に、各スイッチのもう一方の端子から、そのスイッチが担当する電灯へ線を引きます。これで回路が一周し、複線図が閉じます。
なぜ最後か:この線は「どのスイッチがどの負荷を点けるか」という問題ごとの情報を含んでおり、手順2・3のように機械的には決まりません。判断を要する部分を最後に回すことで、それまでの作業が単純になります。
スイッチが複数あるときは、単線図の記号に添えられた文字(イ・ロ・ハ など)で対応関係を確認します。この対応を取り違えると、動作はするが指定と違う回路になります。
手順5:3路・4路スイッチがある場合
3路スイッチは、1つの電灯を2か所から点滅させるためのものです。端子が3つあり、単独の端子(一般に0と表示される)と、切り替わる2つの端子(1と3)に分かれます。
考え方は、手順3と手順4の変形です。
- 電源側の3路スイッチの0番へ、非接地側(黒)をつなぐ ── 手順3にあたる
- 負荷側の3路スイッチの0番から、電灯へつなぐ ── 手順4にあたる
- 2つの3路スイッチの1番どうし・3番どうしを、2本の線(渡り線)でつなぐ
なぜこれで両方から操作できるのか:3路スイッチは、0番を1番か3番のどちらかに切り替えるだけの部品です。2つのスイッチが「同じ番号を選んでいる」ときだけ渡り線が1本の道としてつながり、電気が通ります。片方を操作すれば一致・不一致がその都度入れ替わるので、どちらから操作しても点いたり消えたりします。
4路スイッチは、3路スイッチ2つの間に入れます。渡り線を途中で受け取り、そのまま通すか入れ替えるかを切り替える部品です。3か所以上から点滅させたい場合に、必要な数だけ間に挟みます。両端は必ず3路スイッチで、4路はその間にしか入りません。
| 点滅させたい箇所 | 構成 |
|---|---|
| 1か所 | 片切スイッチ 1個 |
| 2か所 | 3路スイッチ 2個 |
| 3か所 | 3路スイッチ 2個 + 4路スイッチ 1個(間に入れる) |
色を間違えるとなぜ欠陥になるのか
色の指定は見た目の問題ではありません。後から回路を触る人の安全に直結します。
- 接地側に白以外を使った場合 ── 別の人がその配線を見たとき、どちらが接地側か判別できません。判別できなければ、スイッチが非接地側に入っているかも確認できません。
- 器具の接地側極に白以外をつないだ場合 ── 電灯の口金(ねじ込み部分)は接地側につなぐ決まりです。逆にすると、スイッチを切っても口金に電圧が残ります。ランプ交換時の感電につながるため、これは重大な誤りです。
- コンセントの極性を逆にした場合 ── コンセントには接地側極(一般に穴が長いほう、W や N の表示がある側)が決まっています。ここを逆につなぐと、接続した機器の内部で接地側であるべき箇所に電圧がかかります。
つまり色は、「この線に触れても比較的安全か」を後の人に伝えるための表示です。表示が嘘をついていれば、その回路は正しく動いていても危険です。試験でこれが欠陥として扱われるのは、そうした理由によります。具体的にどこまでが欠陥と判断されるかは 電気技術者試験センター が公表する欠陥の判断基準で確認してください。
接続点で使うリングスリーブについて(概要のみ)
複線図が書けると、ジョイントボックス内の各接続点で「何本の電線をまとめるか」が確定します。その本数と電線の太さから、リングスリーブの大きさと圧着の刻印が決まります。
ただしこれは複線図とは別の論点です。複線図の役割は「どれとどれをまとめるか」までで、スリーブの選定はその次の工程になります。まずは複線図を確実に書けるようにして、スリーブの対応表はそのあとで覚えるほうが混乱しません。組み合わせごとの選定基準は公表されている資料で確認してください。
つまずきやすいところ
| 症状 | 原因として多いもの | 戻るべき手順 |
|---|---|---|
| 線がどこかで余る・足りない | 器具のどれかに「行き」か「帰り」の片方しか来ていない | 原理1に戻り、器具ごとに2本あるか数える |
| スイッチを切っても電灯が消えない図になる | 電灯に非接地側を直結している | 手順3(電灯には非接地側を直接引かない) |
| 白をどこに使うか分からなくなる | 「白=接地側」を色の規則として覚えている | 手順4の注意。電源の接地側とつながっているかで判断する |
| 3路が組めない | 渡り線を1本で済ませようとしている | 手順5。渡り線は2本必要 |
| 接続点のまとめ方が毎回変わる | 手順の順番が固定できていない | 手順1〜4を同じ順で毎回書く |
練習のしかた
複線図は、書いた回数に比例して速くなります。ただし答えを写す練習には効果が薄い点に注意してください。写しているあいだ、手順1〜4を自分で選ぶ作業が発生していないからです。
- 単線図を見て、答えを見ずに最後まで書く
- 書けたら、器具ごとに線が2本以上来ているかを数える(原理1の自己点検)
- スイッチに接地側が来ていないか、電灯に非接地側が直結していないかを確認する(原理2の自己点検)
- それから答えと照合する
この2と3の自己点検を挟むだけで、答えを見る前に自力で誤りを見つけられるようになります。そうなれば、初見の回路でも同じ方法で検算できます。
- 技能試験で揃える工具の一覧 — 用途別に整理。セットか単品かの判断も
- 技能試験の練習材料は本当に必要か — 複線図の練習は紙だけでできますが、施工の練習はそうもいきません
学科で問われる計算のほうは、当サイトの計算ツールで考え方を確認できます。許容電流と電線の太さ、電圧降下の計算あたりは、複線図と同じく「なぜそうなるか」から解説しています。